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読書感想文
 
子母沢 寛「勝海舟」を読む

両国の公園にある勝海舟生誕の地の石碑 子母沢寛の「勝海舟」は昭和16年10月から戦後の21年12月まで新聞に連載された。私はこの事実を知っていささか驚いた。太平洋戦争の期間が連載期間の中にすっぽりとおさまるからである。それなのに、「勝海舟」には時の権力者を慮(おもんぱか)る戦争を美化したり高揚する色が微塵もでていない。私はこの作品は戦後になって書かれたものと思っていた。

 「勝海舟」は文庫で6冊、総ページ数4000ページという大作である。しかし、一気に読んでしまうくらいおもしろい。勝海舟という人間の魅力を思う存分味わうことができる。 私は歴史上の人物で偉大な人を挙げろといわれたら、まず西郷隆盛と勝海舟を挙げる。西郷には人間的魅力を、勝には大政治家のみが持つ大局的な戦略眼の持ち主であることに魅力を感じる。この2人が幕末の日本を救ったと私は思っていたし、「勝海舟」を読んでさらにその思いを強くした。
 勝はとにかく大きい人であった。下は町のやくざものから上は将軍まで勝を慕った。勝は磁石のように人を惹きつけた。「勝海舟」の中にはそれこそたくさんの幕末の著名人が登場する。西郷はいうに及ばず、佐久間象山・坂本龍馬・大久保一蔵・木戸孝允・福沢諭吉・松本良順・大久保一翁・山岡鉄太郎・榎本武揚・近藤勇・土方歳三など多彩である。とくに勝と西郷・坂本・松本・山岡とのつながりは興味深い。佐久間象山は勝の年上ではあるが義弟である。「海舟」は象山からもらった号である。

 「勝海舟」は海舟勝麟太郎の幼い頃から幕府が崩壊して徳川家が駿府に追いやられるまでのことを扱っている。麟太郎の人間的魅力は父小吉から受け継いだものである。勝小吉は40俵取りの御家人である。役にはついていなくて生活は苦しい。その上、小吉は義理人情に厚く、困った人には借金をしてまで施しをするというタイプで、勝家の台所はいつも火の車であった。赤貧洗うが如き貧しさといってよい。麟太郎少年は1着しか着物をもっていなかった。小吉の女房である麟太郎の母親は一言も不平を洩らさず夫を信じていた。彼女は麟太郎にはやさしくそして毅然として武士のたしなみを教えた。麟太郎は生涯この母親には頭が上がらなかった。
 麟太郎は剣術を習い、そして蘭学を学んだ。目から血がでるくらい努力した結果、麟太郎はオランダ語に堪能になり蘭書を通して西洋の事情を知るようになる。
 麟太郎は赤坂に塾を構えた。時はアメリカのペリー率いる黒船が日本に来航して日本中が上を下への大騒ぎの最中である。幕府は鎖国の方針を撤回し開国へと切り替えた。
 やはり時代が麟太郎の力を必要としたのである。麟太郎は幕府に召抱えられとんとん拍子に出世して最後は幕府の運命を左右できる立場になった。幕府は麟太郎にたよるしかなかったのである。
 官軍が江戸へ向かい、官軍と幕府が江戸で干戈(かんか)を交える寸前まで状況は逼迫した。幕府の代表たる勝がとった方針は江戸開城である。勝は自らの手で幕府を潰したことになる。西郷は勝の胸中を理解した。江戸城は無血開城された。徳川家は潰されることなく一大名となって駿府へと移封された。

 「勝海舟」をつらぬく主題は、勝の日本を思う心である。勝がつねに考えていたのは、幕府の延命でもなく、薩摩・長州藩とうまくやることでもなかった。一重に日本そして日本人の行く末を考えていたのである。日本は一歩間違えれば欧米列強の餌食にされる状況にあった。日本を独立国として欧米列強と対等に付き合うことに勝は頭を働かせた。幕府が官軍と戦うためにフランスから借金をしようとしたとき勝は猛然と反対した。それこそフランスの思う壺だと勝は察したのである。
 明治になると勝は海軍は薩摩、陸軍は長州のものになるだろうと予言し、そのことを危惧する。事実勝の予言があたり、薩摩・長州の縄張り争いの結果があの太平洋戦争の惨禍となった。
 勝海舟はまったく私心のない人であった。それは西郷隆盛も同じである。勝は権力闘争・利害関係なるものとは無縁に生きた。勝は日本そして日本人の幸福のみを考えていた。
 私は「勝海舟」を読んで、勝海舟は美しい生き方をした人だと思った。

 

子母澤寛旧邸の案内板

※:写真は、大森と鎌田の間、旧新井宿に建っている子母澤寛旧邸の案内板です。

 

※:写真は、墨田区アサヒビール本社前に建っている勝海舟像です。

 
 
作文道場子母沢 寛 (しもざわ かん)。
1892年2月1日 - 1968年7月19日。
北海道厚田郡厚田村(現・石狩市)出身。本名・梅谷 松太郎。 旧制北海中学校(現北海高等学校)、明治大学法学部卒業。読売新聞、東京日日新聞で新聞記者をする。
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